皇子謀殺/関裕二・梅澤恵美子

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CONTENTS

小説古代史異聞
皇子謀殺 天武の理想 持統の野望

皇太子処刑!小説でしか書けない真相。
天武皇太子・大津に仕掛けられた罠とは――。
ヤマトの理想が藤原氏の謀略に破れてゆく悲劇。

壬申の乱後に即位した天武天皇は、大いなる理想を実現するため、国家の未来を託す後継皇太子に、人望厚い大津皇子を指名した。しかし、幼時の疎外感から権力の亡者となった皇后持統は、虎視眈々と復権を狙う藤原不比等に身も心も操られ、秘かに謀略に手を染める―。その後の藤原氏支配を導くことになる、日本史の一大ターニングポイントをドラマチックに描いた古代史小説。

関/裕二
千葉県柏市生まれ。仏教美術に魅せられ、足繁く奈良に通ったことをきっかけに日本古代史研究をはじめる

梅澤/恵美子
東京都生まれ。萬葉集、古伝書などから独自の古代史像を構築


目次

  • 7 序章 山辺皇女の告白
  • 15 第一章 不吉な雷鳴
  • 43 第二章 吉野会盟
  • 99 第三章 不比等の陰謀
  • 123 第四章 大津暗殺計画
  • 151 第五章 巨星逝く
  • 181 第六章 大津の謀反
  • 213 第七章 二上山残照
  • 255 終章 流転の始まり

すでに魂となられたわが夫大津皇子(おおつのみこ)は、磐余(いわれ)の池に身を投じた私に、優しく手をさしのべられました。
私はこうして、大津皇子とともに二上山(ふたかみやま)の頂を越えて、安住の地となるべき茜色に染まった西の空へと飛びたったのでございます。
皇子のあとを追った私は、おそばに行けただけで満足でございますが、皇子の心中はさぞかし複雑なものであったことと推察いたします。
生前の皇子は、誰もが好きにならずにはいられない魅力をお持ちの方でございました。
皇子としての風格と文武の才に恵まれ、明るく豪胆な性格と、上下の隔てなく親しげに接せられる息子の態度は、多くの者を引きつけたのでございます。
しかし私は、この皇子の持つ性格が、逆に命とりとなったものと考えるのです。
皇子は、お父上であらせられる天武天皇が亡くなられたあとの皇位継承問題の中枢にあって、敵対する側からすれば、人望のある皇子の存在は、他の何よりも排斥せねばならぬものでございました。案じていたとおり、とうとう敵対する側からの牙は皇子に向けられ、皇子は謀反人という汚名とともに敗北者としてその生を終えられることとなったのでございます。
いったい誰が、どのようにして皇子の命を奪ったのか・・・・・・。
このような権力闘争にはありがちなことですが、敗者となられた皇子の死の真相が、やがて闇の葬られるのは、必定でございます。
命を賭けて愛した皇子が、汚名を着せられたまま無念の死を遂げた真実を語らずして逝くのは、あまりに切のうございます。
どうぞこれから私の語ること、乱世のときに生きて死なねばならなかった皇子の供養と思い、皆さまの心にとどめていただきたいと祈るばかりでございます。――

(序章 山辺皇女の告白より)

 

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