野宿ライダー、田舎に暮らす <改訂版>/寺崎勉

ご注文について

全国の書店、Amazonのほか、芸文社注文センターにて代金引換(別途、要送料・手数料)でもご注文を承ります。
芸文社注文センター TEL:03-5697-0220 平日9:00~17:00(土日祝日、年末年始、夏季休暇を除く)
FAX:03-5697-0221(24時間受信可能)

CONTENTS

1998年に山海堂より発売された同名の単行本の改訂版。

廃屋を見つけ、手を入れて、住む。集落の人たちとつきあい、畑をいじり、薪を集める。
ムカデに噛まれ、畑の猿を追い払い、愛犬と一緒に溢れかえる緑の中を散歩する。
田舎暮らしの現実がここにある。
寺崎氏のシリーズ復活の第一弾として用意したのがこの本です。

著者:寺崎 勉
1955年北海道網走郡美幌町の農家に生まれる。
武蔵野美術短期大学商業デザイン課に入学。
1977年にスズキ・ハスラー250で山岳林道日本1周、
1981年にホンダ・XL250Sでオーストラリア大陸1周縦横断。
日本1周記がバイク雑誌に取り上げられ物書きとしてデビュー。
同時期、バイクウェアメーカー情報誌の取材ライターを務める。
その後バイクツーリング誌「アウトライダー」創刊。
以降、本格的なライター稼業に突入し、紆余曲折しながら現在に至る

目次

  • 【第一章】廃屋を探す
    • 春の東京で考えた
    • 理想の土地はあるか
    • 初めての廃屋めぐり
    • 現実の壁
    • 廃屋めぐり、再び
    • 「これはひょっとして…」
    • 移住先は決まった
    • 引っ越し
    • テント暮らし
    • さらば、東京
  • 【第二章】田舎暮らしが始まった
    • 初顔合わせ
    • 集落の人たち
    • 十五夜祭り
    • 隣りのばあさん
    • 便所を直す
    • 排水の問題
    • 水道登板
    • ”お題目”とは何か
    • 新聞とゴミ問題
    • 両親がやってきた
    • 薪ストーブ
    • 家具を作る
    • さまざまな田舎暮らし
    • 2階の改装に着手
    • 味噌樽部屋をどうするか
  • 【第三章】田舎暮らしの日々
    • 畑いじり
    • ゴーヤとキュウリ
    • 裏手の梅畑
    • 薪集め
    • チェーンソーと斧
    • 猿とイノシシ
    • ヘビと山羊
    • わが家に住む虫たち
    • 日々の近所づきあい
    • 町民運動会参戦記
    • 選挙の日
    • 都会から来た友人
    • 趣味のバイクとクルマいじり
    • バイク整備小屋
    • 大雪の日
    • ラモが来た
    • 愛犬モク
    • ラモの失踪
    • 7匹の猫
    • ふたつの田舎
  • 寺崎勉さんのこと(スーパースージー発行人 二階堂裕)

春の東京で考えた

1992年の春が過ぎようとしていた。東側の窓から見える茶畑が新鮮な緑に包まれている。この2DK平屋の借家に住んでもう7年目になる。ここに来る前の私は、友達のデザイン事務所に居候しながら雑誌に旅行記事を書いたり、肉体労働のアルバイトをしたりの中途半端な身だった。それがどうしたわけか一緒に住みたいという女性が現れ、親に借金して東京都下にある東大和の平屋を借りたのだ。その間に結婚もし、犬も飼った。仕事も順調で、その頃にはもうライター稼業一本で暮らしていた。
その借家は大きな農家の庭の奥にあり、庭の緑や茶畑に囲まれた静かな場所だった。駅からは遠かったが、犬を飼うにしても、趣味であり仕事の道具でもあるバイクをいじるにも絶好の場所だった。
日当たりのよい南側の窓から見える茶畑に、その年の春からどういうわけかブルドーザーが入るようになった。犬のモクを散歩させながら、この畑はいったいどうなってしまうのだろうといぶかしく思っていたものである。やがてお茶の木は刈られ、据え返された土にコンクリートが打たれ、アパートらしき建物がみるみるうちにできてゆく。それはバブルの頃だっただろうか。
引越しを考え始めたのは、ちょうどそのころだった。南側の窓の全面を覆い尽くすように二階建てのアパートができてゆく。当然ながら日当たりが悪くなった。犬のモクが昼寝を楽しんでいたツヅジの木の下が陰気に湿っぽくなっていった。この借家の最大の長所は三方の緑と日当たりのよさ、そして犬が飼えることだったのだ。
私達夫婦の共通の趣味はキャンプと山登りだった。私はバイクにキャンプ道具を積み、日本やオーストラリアなどの田舎道を放浪して旅行記を書くのが仕事だ。「野宿ライダー」などと呼ばれ、その頃には林道やキャンプに関する著作も何冊かあった。妻は、趣味のスキーから山に入るようになり、登山隊に入ってヒマラヤに遠征したりしていた。世間一般の人達にくらべれば、少しは野外寄りで自然志向の強い夫婦だったと思う。ふたりして犬を連れてよく山に登ったものである。
そんな二人と一匹が、そのままそこに住めるはずはなかった。(15ページより)

関連書籍